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東京地方裁判所 昭和59年(特わ)219号 判決

裁判所書記官

中里功治

本店所在地

東京都葛飾区亀有三丁目三二番一号

有限会社佐藤製菓店

(右代表者代表取締役佐藤運助)

本籍

東京都江東区平野一丁目二〇番地一二

住居

同都葛飾区亀有三丁目三二番一号

会社役員

佐藤運助

昭和四年一〇月一三日生

右の者らに対する各法人税法違反被告事件について、当裁判所は、検察官三谷紘出席のうえ審理し、次のとおり判決する。

主文

一  被告人有限会社佐藤製菓店を罰金一五〇〇万円に処する。

二  被告人佐藤運助を懲役一年に処する。

この裁判確定の日から三年間右刑の執行を猶予する。

三  訴訟費用は被告人両名の連帯負担とする。

理由

(罪となるべき事実)

被告人有限会社佐藤製菓店(以下「被告会社」という。)は、東京都葛飾区亀有三丁目三二番一号に本店を置き、甘味飲食品の製造販売等を目的とする資本金四九〇〇万円(昭和五九年一月一一日以前は五〇万円)の有限会社であり、被告人佐藤運助は、被告会社の代表取締役として同会社の業務全般を統括しているものであるが、被告人佐藤は、被告会社の業務に関し、法人税を免れようと企て、売上の一部を除外するなどの方法により所得を秘匿したうえ、

第一、昭和五五年一月一日から同年一二月三一日までの事業年度における被告会社の実際所得金額が四一〇八万一二四五円(別紙(一)修正貸借対照表参照)あつたのにかかわらず、同五六年二月二七日、東京都葛飾区立石六丁目一番三号所在の所轄葛飾税務署において、同税務署長に対し、その所得金額が三四五万五五二五円でこれに対する法人税額が九三万三七〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書(昭和五九年押第三九九号の一)を提出し、そのまま法定納期限を徒過させ、もつて不正の行為により同会社の右事業年度における正規の法人税額一五五五万八七〇〇円と右申告税額との差額一四六二万五〇〇〇円(別紙(四)税額計算書参照)を免れ

第二、昭和五六年一月一日から同年一二月三一日までの事業年度における被告会社の実際所得金額が五二七三万四四五三円(別紙(二)修正貸借対照表参照)あつたのにかかわらず、同五七年三月一日、前記葛飾税務署において、同税務署長に対し、その所得金額が一三八万五一〇七円でこれに対する法人税額が三八万三〇〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書(同押号の二)を提出し、そのまま法定納期限を徒過させ、もつて不正の行為により同会社の右事業年度における正規の法人税額二一一五万五八〇〇円と右申告税額との差額二〇七七万二八〇〇円(別紙(四)税額計算書参照)を免れ

第三、昭和五七年一月一日から同年一二月三一日までの事業年度における被告会社の実際所得金額が四六七四万一一六二円(別紙(三)修正貸借対照表参照)あつたのにかかわらず、同五八年二月二八日、前記葛飾税務署において、同税務署長に対し、その所得金額が八八二万九五七一円でこれに対する法人税額が二七一万八六〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書(同押号の三)を提出し、そのまま法定納期限を徒過させ、もつて不正の行為により同会社の右事業年度における正規の法人税額一八六四万一六〇〇円と右申告税額との差額一五九二万三〇〇〇円(別紙(四)税額計算書参照)を免れ

たものである。

(証拠の標目)

判示全事実につき

一  被告人の当公判廷における供述

一  第一回公判調書中被告人の供述部分

一  被告人の検察官に対する供述調書

一  佐藤久作、山﨑光政、佐藤初江の検察官に対する各供述調書

一  収税官吏作成の次の調査書

現金調査書

普通預金調査書

定期預金調査書

過払源泉税調査書

未収利息調査書

貸付金調査書

未納事業税調査書

価格変動準備金調査書

特別償却引当金調査書

一  葛飾税務署長作成の証明書

一  被告会社の登記簿謄本

一  押収してある法人税確定申告書四袋(昭和五九年押第三九九号の一ないし四)及び同修正申告書一袋(同押号の五)

判示第一の事実につき

一  収税官吏作成の貸付金当期認容否認調査書

判示第三の事実につき

一  収税官吏作成の車輌運搬具調査書及び特別償却引当金戻入調査書

(法令の適用)

一  罰条

(一)  被告会社

判示第一の事実につき、昭和五六年法律第五四号による改正前の法人税法一六四条一項、一五九条一項

判示第二、第三の各事実につき、右改正後の法人税法一六四条一項、一五九条一項

(二)  被告人佐藤

判示第一の事実につき、行為時において右改正前の法人税法一五九条一項、裁判時において改正後の法人税法一五九条一項(刑法六条、一〇条により軽い行為時法の刑による)

判示第二、第三の各事実につき、右改正後の法人税法一五九条一項

二  刑種の選択

被告人佐藤につき、いずれも懲役刑選択

三  併合罪の処理

被告会社につき、刑法四五条前段、四八条二項

被告人佐藤につき、刑法四五条前段、四七条本文、一〇条(刑期及び犯情の重い判示第二の罪の刑に加重)

四  刑の執行猶予

被告人佐藤につき、刑法二五条一項

五  訴訟費用の負担

被告人らにつき、刑訴法一八一条一項本文、一八二条

(量刑の理由)

本件は、和菓子の製造販売を業とする被告会社において、代表取締役である被告人が売上げを一部除外するなどの方法により、三事業年度にわたり、合計五一三二万円余の法人税を免れた事案であつて、ほ脱税額が特に高額とはいえないにしても、その正規の税額に対するほ脱割合は約八五ないし九八パーセントと高率であるうえ、被告会社では金銭出納帳程度の帳簿しか備えず、長期かつ継続的に脱税を行なつていたもので、被告人の納税意識はかなり稀薄といわざるを得ず、被告人の刑責は軽視することができない。しかしながら他方、本件の脱税の方法は売上金額の一部を除外した金銭出納帳を作成し、除外金額を仮名預金等に回していたものの、右以外にことさらな所得秘匿工作を施しておらず、したがつて手段・方法において特に悪質と指摘されるほどのものでなく、本件で蓄積された資産も他に費消されることなく残されていて、そのはとんどが本件査察調査等により把握されていると認められること、被告人は本件が発覚してから強くその非を悟り、捜査公判を通じて素直に事実を認めて反省の情を示し、会社の業務上の改善措置を講じて再犯なきを誓つており、修正申告をするとともに加算税、延滞税等を含め必要とされる税をすべて納めていること、さらに被告人は三〇年間以上も和菓子の製造販売に従事してきた勤勉な職業人であり、前科歴をみても、業務上過失傷害罪により一度罰金刑に処せられたことがあるだけで、他に特段の前科前歴はないことなど被告人に有利な清状も存し、これら諸般の事情を総合勘案して、被告人佐藤に対しては刑の執行を猶予し、主文のとおり量刑した次第である。

(求刑・被告会社につき罰金一七〇〇万円、被告人佐藤につき懲役一年)

(裁判長裁判官 小泉祐康 裁判官 田尾健二郎 裁判官 石山容示)

別紙(一)

修正貸借対照表

有限会社 佐藤製菓店

昭和55年12月31日

〈省略〉

別紙(二)

修正貸借対照表

有限会社 佐藤製菓店

昭和56年12月31日

〈省略〉

別紙(三)

修正貸借対照表

有限会社 佐藤製菓店

昭和57年12月31日

〈省略〉

別紙(四)

税額計算書

〈省略〉

〈省略〉

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